古典語入門
これは「言語」というよりも、「文化」の領域の話になりますが、日本が文明として「一定の完成形」に至り、その潜在力を十分に発揮するためには、Greece/India/Chinaという「世界3大哲学圏 (三哲)」の思想/文化をしっかりと吸収/消化する必要がありますし、そのためには言語の面でも、可能な限り、それらとの繋がりを強めていく必要があります。
具体的に関連する言語を列挙していくと、
- Greece/West
- ① Latin (ラテン語)
- ② Greek (ギリシャ語)
- India
- ③ Sanskrit (サンスクリット語)
- ④ Pali (パーリ語)
- China
- ⑤ Chinese (中国語/漢語)
の5言語を、挙げることができますし、これが日本(人)にとっての (日本語 (古典日本語/古語) 以外で、とりあえず優先的に重視すべき) 5大古典言語であると、言うことができるでしょう。
そして、⑤ Chinese (中国語/漢語) に関しては、多くの日本人は概ねそれなりにおなじみで慣れ親しんでいるので、とりあえず当面注力すべきなのは、①-④の
- Indo-European languages (インドヨーロッパ語族)
- Fusional language (屈折語)
という性格を共通に持っている言語群であると、言えるでしょう。
特に、日本人にはあまり縁が無くて不慣れな、「名詞 (+形容詞) の複雑な語形変化」である、
- Declension (曲用) (と、Case (格))
については、皆がある程度は慣れておく (概要を知っておく/感覚を掴んでおく) ことが、望ましいと言えます。
(※ 念のため断っておきますが、これらの言語を「修得」する必要など全くありませんし、教養として少しかじっておく程度で十分です。それ以上は「趣味の領域」「(多くの人には) 時間と労力の無駄」であり、その時間/労力を、別の「科学/社会的実務の知識」習得に費やしてもらった方がはるかに有益です。)
そういう訳で、「言語」と「文化」の領域にまたがる、こうした「古典語」についても、我々はそれなりに扱っていくことになりますし、ここではその「入門」として、ほんの触りの概要の部分だけを、簡単に述べておきたいと思います。
概要
曲用と格
名詞/形容詞の曲用 (格変化/Declension) の大まかな傾向。
格 (Case) \ 言語 | Latin | Greek | Sanskrit | Pali | Japanese | Korean | English |
---|---|---|---|---|---|---|---|
主格/1格 (Nominative) |
-(s) -a/e/ī/s |
-α(ς)/η(ς)/ος/ς -αι/οι/ες |
-ḥ -ḥ |
- -ā/o |
-が (-は) | -가/이 (-는/은) | - |
属格/所有格/2格/生格 (Genitive) |
-ae/ī/is -(r)um |
-ας/ης/ος/ου -ων |
-ḥ -ām |
-ssa/no/ā -naṁ |
-の | -의 | -'s/ of - |
与格/為格/3格 (Dative) |
-ae/ō/ī -(bu)s |
-ᾳ/ῃ/ῳ -(α/ο)ις |
-a/e/ai -bhyaḥ |
-ssa/no/ā -naṁ |
-に/へ | -에게 | to/for - |
対格/目的格/4格/業格 (Accusative) |
-m -s |
-αν/ην/ον -ας/ους |
-m -ḥ |
-ṁ -e/o |
-を | -를/을 | - |
具格/造格/7格 (Instrumental) |
↓奪格に吸収 | ↑与格に吸収 | -ā -bhiḥ |
-a/ā -(b)hi |
-で | -로/으로 | by/with - |
奪格/従格/離格 (Ablative) |
-ā/ē/ō/ū -(bu)s |
↑↑属格に吸収 | -ḥ -bhyaḥ |
-a/ā -(b)hi |
-から/より | -에서/부터/보다 | from/since/than - |
処格/所格/地格/ 位格/依格/於格/ 6格/前置格 (Locative) |
↑奪格に吸収 | ↑与格に吸収 | -i/m -ṣu |
-i/ā/ṁ -su |
-に/へ -で |
-에 -에서 |
to/for - at/on/in - |
呼格/5格 (Vacative) |
概ね主格 (Nominative) と同様 | -よ | -(이)여 | - |
- ※ 上段単数 (s)、下段複数 (p)。双数 (d) は省略 (Latin/Paliでは消滅)。
活用
動詞の活用 (Conjugation) の大まかな傾向。
時制 (Tense) \ 言語 | Latin | Greek | Sanskrit | Pali | English |
---|---|---|---|---|---|
現在 (Present) |
-ō/s/t -mus/tis/nt |
-ω/εις/ει -μεν/τε/σι |
-mi/si/ti -mah/tha/anti |
-mi/si/ti -ma/tha/nti |
- |
過去/未完了 (Past/Imperfect) |
-am/as/at -amus/atis/ant |
ἐ-ν/ς/(ν) ἐ-μεν/τε/ν |
-m/h/t -ma/ta/an (uh) |
-ed | |
未来 (Future) |
-ō(m)/s/t -mus/tis/nt |
-σω/σεις/σει -σομεν/σετε/σουσι(ν) |
-sya- | -issa- | will - |
Aorist | ἐ-σα/σας/σε(ν) ἐ-σαμεν/σατε/σαν |
-m/h/t -ma/ta/an (uh) |
-m/i/i -ma/tha/um |
-ed | |
(現在)完了 ((Present) Perfect) |
-ī/istī/it -imus/istis/ērunt(ēre) |
-ε-κα/κας/κε(ν) -ε-καμεν/κατε/κᾱσι(ν) |
-a(u)/tha/a(u) -ma/a/uh |
have -ed |
時制 (Tense) \ 言語 | Latin | Greek | Sanskrit | Pali | English |
---|---|---|---|---|---|
現在 (Present) |
-or/ris/tur -mur/mini/ntur |
-μαι/ι/ται -μεθα/σθε/νται |
-ya- | -ya- | be -ed |
過去/未完了 (Past/Imperfect) |
-bar/baris/batur -bamur/bamini/bantur |
ἐ-μην/ο(υ)/το ἐ-μεθα/σθε/ντο |
be(p) -ed | ||
未来 (Future) |
-r/ris/tur -mur/mini/ntur |
-σομαι/σῃ/σεται -σόμεθα/σεσθε/σονται |
will be -ed | ||
Aorist | ἐ-θην/θης/θη ἐ-θημεν/θητε/θησᾰν |
be(p) -ed | |||
(現在)完了 ((Present) Perfect) |
-tus sum/es/est -ati sumus/estis/sunt |
-ε-μαι/σαι/ται -ε-μεθα/σθε/νται |
have been -ed |
- ※ 上段単数 (s)、下段複数 (p)。1/2/3人称順。